連載!山崎裕子先生による「JCA検定講座」 Feed

Vol.1 ~認定制度の意義~

第1回「トールペインティング技能検定の意義」
̶なぜ検定を受けるのでしょうか?-

 トールペイント…と、一口に行っても、実に様々な技法があって、とても幅の広いホビーである事は、もう皆さんご存知ですよね。
 アメリカントールペイント、ジョストボ、ローズマリング、マルチローディング、フローラル、スティルライフ…他にも数えきれないくらい色々なスタイルが有ります。
 図案があって、色も決まっていて、描き方も其々のスタイルに合わせて技法があるので、入口は、絵心が無くても、誰でも簡単に描けるようにできているのが、トールペインティングの良さですね。
 そして、上達するにつれて、それぞれのスタイルには、個々の認定試験などもあって、合格すれば、講師資格が取れたり、習ってきた図案が使えたり…と、これもまた、それぞれの規定に沿った認定が受けられるクラスもたくさんあります。これらの認定は、ご自身が習ってきたスタイルやカテゴリーの中での位置づけや証として、励みになる事でしょう。
 では、トールペインティングという全体を見たときに、ご自身がその技法を通じて学んできた事は、どのくらいの力になっているのでしょうか?
 ある認定は、ピラミッド状になっていて、実力や、年数に応じて高い評価にのぼり詰めていく形かもしれません。また、別の認定は、数個の課題で次々にお免状をいただけて、実力というよりは、モチベーションの為の認定かもしれません。しかし、それらは、あくまでもその技法、スタイルの認定なのです。
 どんなスタイルの技法を学んできたか、という事と関係なく、トールペイントを習う事によって得られる技術の向上や、知識の表現が、どのくらい身についたのかという、今の自分の力を図るための試験が、このトールペインティング技能検定です。
 検定というと、どうしても合格、不合格にとらわれて、一喜一憂し疲れてしまう人もいるかもしれません。それでは楽しいはずのトールペインティングが、まったく面白くなくなってしまいます。
 また、検定は、特別な勉強をしないと受けてはいけないと誤解なさっている方もいらっしゃるかもしれませんね。
 この検定には其々の力を評価する、クリティークシートが付いています。これがとても大事なのです。そこには、ニスの塗り方、仕上げのていねいさ、細かいところへの気の遣い方、ブレンドのテクニックと、どこの教室で習っても、きちんと学ぶべきトールペイントの基礎の評価から始まり、ストロークやラインの正しい引き方、さらに勉強の進んだ方には、色の勉強の成果に至るまで、とても細かい項目から成り立っています。
 審査員は、一つ一つの作品を丁寧に、このクリティークシートに沿って審査していきます。各級の基準にしたがって、少しでも勉強の成果が作品に表わされていれば、ABC それぞれの評価が得られますし、点数も付きます。
 勉強のあとが見られなければ評価にNI(もっと勉強が必要)がつき、評価が出来ないとNFS、つまり点数が付きません。これは、試験ですので、クリティークシートでチェックする項目に評価されるような、トールペインティングの最低限の基本的な技術や知識を全く使わず、自由奔放なアートのように描いてしまうと、面白い作品でも点数をつける事ができず、NFS になってしまう事もあります。
 しかし、トールペインティング独特の、特殊な技法で描かれている場合は、そのスタイルを重んじて、評価していきます。
 55%以上の点数がつくという事は、習ってきた事が表現できているという事なので、とても大きな意味のあることなのです。65%には65%の、75%には75%の意味が有って付いている点数です。
 決して合格だけに意味のあるものではありません。
 検定の為の特別な勉強でなくても、近所のトールペインティング教室で、きちんとはみ出さない、デコボコしない、きれいなべた塗りや、スムーズなサイドロードを習い、正しいカンマストロークの引き方を身につければ、最初の一歩はもう、誰にでもできる事なのです。
 そして、一番大事なのは、検定を受けた後、クリティークシートに書かれている事をよく読んで下さい。次に、あなたが進めるべき勉強の方向が見えてくるはずです。毎年この検定を受けながら、指摘された勉強を積み重ねていく事で、徐々に実力が付き、いつか75%に達する力がついて、それがちゃんと表現できれば、自然と合格します。
 この技能検定のもう一つの特徴はとても奥の深い事です。級が上がるにつれて、アーティストとしての質も向上できるように、色彩学の要素が含まれています。技術とともに、教わった通りの色から、自分で決める色へと成長していく事が要求されます。
 そもそも、なぜ、このような検定が、できたのでしょうか?
 それは、トールペインターの質を向上させるための教育プログラムとして、日本トールペインティング協会が、14 年前に、当時アメリカのSDP のサティフィケーションで、長年審査員を務めておられたMDA の先生方をお招きして、検討を重ねて作られたものなのです。
 この検定が、始まってから、14 年の歳月が流れました。毎年数多くのエントリー作品の中から、それぞれの級のそれぞれの点数の基準となる、スタンダードと呼ばれる作品が選ばれ、写真に収められて、資料として蓄積されていきます。
 新しい年の審査にあたっては、必ずこの過去のスタンダードに照らし合わせて点数がつけられますので、年によって、あるいは審査員によってぶれるという事が無く、毎年同じ水準で評価されていきます。
 このように、システマティックにできているので、絶対的な信頼のおける評価の得られる認定制度と言えるのです。
 今の自分のトールペイント力を知るために、そして、次に何を学んでいけばよいのかを知るために、是非、検定にトライしてみて下さい。

Yamazaki
山崎裕子プロフィール:
イラストレータとして広告・出版の仕事に携わる。
2003 年ゴールドアーティストに認定。翌年よりシェリー先生・ペギー先生・キャロル先生から研修を受ける。2007 年MDAに認定。NTP(現JCA) トールペインティング技能検定の審査員として活動する。2009 年SDP のサティフィケーション審査員を務める。その他コンテスト多数受賞。現在トールペイントにまつわるブログを掲載中。
http://ameblo.jp/atelier-ys1/

Vol.2 〜検定で行っている評価〜

第2回 クリティークシート(評価表)には、なにが書かれているのでしょうか?

 前回は、検定講座では検定を受ける意義について書かせていただきました。「今の自分のトールペイント力を知り、次に何を学んでいけばよいのかを知るために」・・・そんなふうにとらえて、毎年受けることで、物差しのようにご自身の成長をはかってみてはいかがでしょうか。
 その中で、「この検定には其々の力を評価する、クリティークシートが付いています。これがとても大事なのです。」とお話ししたのですが、今回はこのクリティークシートで何を評価しているのかを、少しご説明しようと思います。
 クリティークシートは、作品の評価をしていく、とても大事な基準です。スティルライフ・フローラルカテゴリーとストロークカテゴリーでは、基準が少し違います。なぜなら、良い作品を描くために重要視される部分が違うからです。其々に、いくつかの評価する項目が有ります。その全ての総合評価で、点数が決まります。
 では先ず、スティルライフ、フローラル、ストローク全ての作品にとって一番大事な評価は、何でしょう?「きちんとデザインを解釈をして、印象の良い作品に仕上がっているかどうか」これが最も重要視されます。つまり、絵を描くにあたり、二スも、ブレンドも、色彩論ももちろん大事なのですが、なによりも、絵として魅力が有るかどうか、という事を最も重んじているのです。これが、この検定の素晴らしいところであり、ずっと長い間、続いてきた底力なのだと思います。
 勉強中の方によく起こりがちなのですが、試験という事で、少し硬くなってしまい、失敗しないようにと、色をおそるおそる置いて、無難で面白味のない絵になってしまっていることがあります。これでは、良い印象を与える魅力的な絵とは言えませんね。多少難が有っても、大胆に、生き生きと、楽しそうに描かれた絵は、自分の部屋に飾ってずっと眺めていたくなりませんか?これは、決して色彩論や技術を否定している訳ではありません。きれいな二ス、なめらかなブレンド、色彩論をよく理解したうえできちんとコントロールされた色を使う事で、魅力的な絵が生まれるのです。
 では、魅力的な、良い印象を与える絵を描くにはどうしたら良いのでしょう。そのよりどころとなるのが、クリティークシートの総合評価の下に続く、それぞれの項目なのです。この一つ一つを学び、きちんと理解し、表現できるようになることが、次第にバランスのとれた、ハーモニーをかもしだす、魅力的な作品づくりへの手助けとなるでしょう。スティルライフ・フローラルカテゴリーで、よい印象の作品として評価される際に、最も重要なのが「主題が効果的に確立されている」という事です。主題とは、よく、フォーカルエリア、とか、センターオブイントレストと呼ばれます。聞いたことが有りますか?絵の中で、最初に目が行く部分のことです。このポイントが散漫では、この絵はいったいどこが一番大事で、どこから見始めたらよいかわかりませんよね。また、ある一部分だけが、よく描かれていて、他の部分はいい加減だったら、視線がそこで止まってしまい、やはり絵全体の良い印象が得られませんね。良い印象を得るためには、主題が確立されていなければなりません。そして、この「フォーカルエリアを効果的に確立する」ために必要なのが、色彩論に基づく色のコントロールなのです。
 もちろん天賦の才能の持ち主で、感性だけで描けてしまう方もいらっしゃるかもしれません。でも、天才ではない普通の私たちは、この便利な体系だった理論を学ぶことで、もっと簡単に色のことが分かるようになります。中学や、高校の美術の授業で学んだ、色の勉強を思い出してみてください。色の3 要素「色相」「明度」「彩度」。まさに、この3 つがきちんと理解、認識できていて、適切にコントロールされ、具体的に作品の上で、表現されれば、フォーカルエリアが確立します。この3 要素の理解度もまた、クリティークシートのそれぞれの項目で評価されていきます。
 さて、検定というと、どうしてもこの3要素の勉強に注目が置かれがちです。確かに奥が深く、学んでいくのにも時間がかかるため、この部分の完成度が高いと作品の評価が高くなります。しかし、実は、この項目が厳しい評価で重要視されるのは、1 級受験者のみなのです。もちろん2 級、3 級受験者も勉強の進み具合が問われます。しかし、勉強して、知識として理解することと、色が見極められて確実に表現できることは違います。1 級では、確実に表現するための色を、選べる力が評価されますが、2 級では、まだ確実には表現しきれなくても、勉強して試みようとしている跡が見受けられる事で評価されます。そして、3 級は、勉強の入り口に立つ初心者のための級です。何も知らなかった昨日から、色を学んで表現しようと試み始めた明日へ、一歩を踏み出したかどうかを絵から見てとれることで、評価されるのです。
 そういったことを踏まえて、色彩論の勉強と表現の前に、全ての級に要求される、重要な評価が、技術点です。「きれいにブレンドができているか」「ラインワークや細かいところの処理が上手にできているか」「背景やフレームが絵と合っているか」「二スがきちんとぬられているか」これらは、トールペイントを始めた方が、最初に習う基本的な技術です。決して特殊なことではありません。そして、練習を積み重ねれば、どなたでもマスターできます。練習といっても決して苦しい修行ではありません。いつも楽しく描くトールペイントの作品を、ちょっとだけ細かいところまで気をつけて、きれいに仕上げてみましょう。せっかく描いた作品もきれいな仕上がりのほうが、飾っておいても気持ちが良いでしょう?
 技術を評価する項目は、すべての級で重んじられます。3 級受験者の作品はこれらの技術が優れていると、高い評価が得られます。2 級1 級受験者は、この部分は、3 級で合格してきたのですから、きちんとできているということが前提となります。
 次に、ストロークカテゴリーのスティルライフ・フローラルと違う点を見てみましょう。
 ストロークカテゴリーにおいて、最も大事なのは、「ストロークを上手にコントロールして描いているか」「ラインワークを上手にコントロールして描いているか」ということです。この技術が最も高く評価されます。
 必ずしも「主題が確立されている」必要はありません。ただし、もし主題となる部分を作った場合は、きちんと確立されているかどうかが評価対象となります。
「 色「」彩度「」明度」の評価は、「流れ」で表現します。デザインの中に流れができているかどうかが、大事なポイントとなります。
 ストロークカテゴリーでも、ブレンディング技術が評価されます。しかし、ストロークの部分は、絶対にブレンドしてはいけません。大きな形の中で、ブレンド力を見せてください。もちろんこのブレンドは、サイドロードや、ブロッキングのみならず、ストロークを重ねたり、並べて、少しずつずらして作るブレンドなど、伝統的な其々のストロークスタイルのブレンドの技法、どんな方法でも評価されます。
 クリティークシートに書かれている細かい評価を全てここで、ご説明することはできません。それは一人ひとり違うからです。このシートの詳しい解釈、それに沿ってどのように勉強をしていったらよいのかは、是非、検定を受けて、カンファレンスという解説の面談にいらしてください。そこで毎年、ご希望の方お一人お一人に、ご説明をしています。この面談を通して、「より深く理解することができました」というお声をいただき、いつもとても嬉しく思っております。

Yamazaki_2
山崎裕子プロフィール:
イラストレータとして広告・出版の仕事に携わる。
2003 年ゴールドアーティストに認定。翌年よりシェリー先生・ペギー先生・キャロル先生から研修を受ける。2007 年MDAに認定。NTP(現JCA) トールペインティング技能検定の審査員として活動する。2009 年SDP のサティフィケーション審査員を務める。その他コンテスト多数受賞。現在トールペイントにまつわるブログを掲載中。
http://ameblo.jp/atelier-ys1/

Vol.3 ~3 級ストロークの評価~

第3 回3級ストロークでは何を見ているのでしょう。

 検定講座も3 回目となりました。2 回にわたって、検定の意義や、クリティークシートの大事さを、お伝えしてきました。
 しかし、実際に検定を受けて、帰ってきたクリティークシートを見ても、勉強が進んでこないと、何を言っているのかが、なかなか読み取れません。そこで今回は、具体的に作品を見ながら、検定ではどんなことを審査しているのかを、解説していきたいと思います。
 昨年3 級のストロークカテゴリーにエントリーされ、合格まで、あと一歩という方の作品をお借りいたしました。このような試みに、快くご理解ご協力いただき、この講座を通して学ばれていらっしゃる皆様のために、作品をシェアして下さり、本当に感謝いたしております。この場をお借りして、お礼を申し上げます。
 評価の客観的な見方について書いていきますので、時には辛口に感じる部分もあるかもしれませんが、評価の方法とご理解くださいませ。検定では、もしこう描いていればとか、もっとこうだったらといった評価はしません。そこにある絵そのものが、どうであるか、という事を審査していきます。3 級は検定初心者のための級ですので、2 級、1 級と級が上がるにつれて、徐々に評価が厳しくなります。
 では一緒に作品を見て行きましょう。(3級ストローク作品例)
Img_3391 「え~・・・、こんなにきれいなのに合格しないの?厳しい~! 」っていう声が聞こえてきそうですね。とっても上手に描けているステキな作品です。
 フレームを見てください。スポンジングのテクニックで、作品をより魅力的にしています。このように何か手を加えると、それ自体が評価の対象になります。成功すれば、高い評価を得られます。失敗を恐れて、なにもせず、それが結果的にデザインを上手くサポートできない場合もあるのです。この作品の場合は、デザインの色や明度、彩度とバランスが良く取れ、目を引きすぎず、効果的に引き立てています。
 二スがけもきれいにできました。筋やゴミが無く、すべすべの仕上がりです。画面の表面は、実際に手で触ってすべすべかどうかを確認して審査します。
 バックグラウンドも、デザインとバランスの取れた明度、彩度の色
を選んでいます。こうした基本的なところは、検定ではきちんと押さ
えましょう。ストロークカテゴリーで最も重要なのは、ストロークや、ラインワークです。Img_3391up_2
 細く入って、少し膨らみ、最後は細く抜ける、一筆でひいたガタつきの無い滑らかなラインが理想です。そのラインに沿って、流れるように、一筆でストロークを入れていきます。カンマストロークは、ヘッドが丸く、徐々に細くなっていく、正しいティアドロップ型が、同じ間隔で、同じ方向に向かって正しいテイル( 終わり) で描かれているかを見ていきます。
 作品では、カンマストロークの丸いヘッドはきれいに描けていますね。ラインやストロークに、ところどころちょっとぎこちない部分が有ります。テイルがかすれて、転写のラインが見えているものもあります。しかし、一貫して、一筆で引いていると見えます。
 3 級としては、評価できるストローク、ラインワークですが、引き続き練習をしていきましょう。ストロークカテゴリーは、ストロークが、かなり良いと、高い評価が得られます。
 フォーカルエリアを作る必要はありません。色、明度、彩度が、バランスよく調和されて、流れができていればよいのです。もし、作ってあれば、フォーカルエリアのある作品として審査します。
 この作品は、中央部分の大きなチューリップが明るく、外側に向かって流れができているように見えるので、フォーカルエリアを作った作品として審査しました。
 先ず、明度を見ましょう。全体に明度の低いローキーで、中心が明るく、外側に向かって暗くなっています。画面全体の明度の流れがとてもよくできています。ただ、外側についているピンクのドットがちょっと明るく、目を引いてしまいませんか? 一つ一つの要素の明度を見てみましょう。きれいにブレンドできていますが、グラデーションが弱く、立体感が足りません。明度では、全体の流れと、個々のグラデーションや立体感を見ています。
 次に、色を見てみましょう。ピンクとグリーン系でできていますね。グリーンに注目して下さい。センターはイエローグリーンですが、外側に行くに従って、ブルーグリーンになってしまいました。これは、とても混乱しやすく、1 級の方でも、間違えやすい部分です。同じ色が、明度と彩度を変えて繰り返されている事で、全体の流れができるのです。もしイエローグリーンとブルーグリーンを使うのであれば、両方の色を、中央にも、外側にも使う事で色が流れます。でも、色数が多くなるとコントロールが難しくなるので、明度や彩度を変える時に、グリーンから、隣の色に変わらないように気をつける方がより簡単ですね。
 最後に彩度です。グリーン系は、外側に向かって明度を落としていった時、ブルーグリーンの彩度が、上がってしまいました。結果的に、フレームライナーのブルーグリーンがとても鮮やかになってしまい、デザインから目をそらしてしまいます。一方、ピンクの色は、センターが明るく、外側へ行くにつれ、色も彩度も変わらず暗くなっています。色と明度の流れはできました。しかしこれでは、彩度の流れができません。グリーンと比べてもセンターのピンクは、ちょっと彩度が低くバランスが取れていませんね。センターに向かってピンクをもう少し鮮やかにしていくと、彩度にも流れができます。色や彩度の流れを作るのは、とても難しいですね。3 級では、有る程度学んでいる様子が伺えれば、この部分は、それほど厳しい評価をしません。
 このように検定では、一つ一つの項目を、別々に見て行き、最後に総合評価で点数が決まります。
 シェリー・ネルソン先生は仰います。「1 日10 分、100 ストローク、毎日練習しましょう」
 トールペイントで習う基本的な技術をきちんと練習して、丁寧に描き上げることが大事です。今年の夏は毎日10 分練習して、3 級ストロークにトライしてみませんか?

Yamazaki_3
山崎裕子プロフィール:
イラストレータとして広告・出版の仕事に携わる。
2003 年ゴールドアーティストに認定。翌年よりシェリー先生・ペギー先生・キャロル先生から研修を受ける。2007 年MDAに認定。NTP(現JCA) トールペインティング技能検定の審査員として活動する。2009 年SDP のサティフィケーション審査員を務める。その他コンテスト多数受賞。現在トールペイントにまつわるブログを掲載中。
http://ameblo.jp/atelier-ys1/

Vol.4 〜3 級スティルライフの評価〜

第4回 3級スティルライフでは何を見ているのでしょう。

 この検定講座では、検定の意義やクリティークシートの大切さをお伝えしてまいりました。前回は、実際に3 級ストロークの作品をお借りして、クリティークシートの見方を解説いたしました。検定ではどんなことを審査しているのか、その一端がご理解いただけたのではないかと思います。
 今回は、昨年3 級のスティルライフカテゴリーにエントリーされ、合格まで、やはりあと一歩という方の作品をお借りいたしました。快くご理解ご協力いただき、皆様のために作品をシェアしてくださって、本当にありがとうございます。
評価の客観的な見方について書いていきますので、時には辛口に感じる部分もあるかもしれませんが、評価の方法とご理解くださいませ。検定では、もしこう描いていればとか、もっとこうだったらといった評価はしません。そこにある絵そのものが、どうであるか、という事を審査していきます。
 とっても丁寧で、きれいに描かれていますね。どこが良くて高い評価を得られて、なにが原因で合格まであと一歩だったのでしょう。一緒に作品を見ながら、考えてみましょう。

Img_3395 先ず写真では分かりにくいところですが、この作品は仕上げのニスがとてもきれいで丁寧です。フレームや背景の色も、デザインを引き立てて、とてもよくできています。厳密に言うと、色が少しずれているのですが、3 級ではそれほど厳しくとりません。そして何よりこの作品は、細かい部分の描写の丁寧さや、サイドロードで描かれたブレンドの技術の高さが評価されました。
 ここまでは、特別な検定のための勉強をしなくても、普段からトールペイントの作品を熱心に、そして丁寧にたくさん描かれていれば、どなたでも身に付けることのできる技術です。そしてこの技術をきちんと身につければ、合格が見えてくる作品が描けるようになるのです。
 このくらい描けるようになれば、次は、そろそろ色の事を学んでいく時期といえるでしょう。ここからが、この検定の提案する勉強の新たなスタートラインです。

 では、なぜ色の勉強が必要なのでしょう。絵を描いた時に、最初に見てほしい部分はどこですか?この部分をフォーカルエリアと呼びます。そこから、心地よく視線が流れて、絵全体をいつまでも飽きずにずっと、見ていてほしいですよね。そのために、色の流れが必要になります。写実的な絵であれば、立体感や質感はどうやって出しましょう。こういった問題が全て色をコントロールすることで解決できるのです。
 色を見ていくときに、混乱しないように必ず分けて考える必要があるのが、色の3 要素です。色相、明度、彩度、もうこれは、皆さんご存知ですね。今、自分がコントロールしようとしているのはこの3つの要素のうちのどれなのかを、常に考えながら色を見る習慣をつけましょう。とはいっても、最初はなかなか見分けるのは難しいですね。意識して、見ようとしているとだんだん慣れて、見分けることができるようになりますよ。

 では、再び作品をご覧ください。色はいかがですか?黄色、紫、緑この3 色をバランスよく繰り返していますね。色の勉強を一歩スタートし始めていることが分かります。もしここに、一つだけ全く違う色が有ったらどうでしょう?そこに目が行って、視線が釘付けになってしまいませんか?ここでは、ひまわりの花芯の色が、ちょっと黄色のカラーファミリーから外れていて、目を引いてしまいます。しかしこの花芯は、どうやら色よりも明るさに問題が有りそうですね。

 次に、明度を見てみましょう。ハイキーの柔らかいイメージの作品です。やはりひまわりの花芯が、暗すぎて、目が行ってしまいませんか?この作品では、どこがフォーカルエリアかよくわかりませんね。中央の紫の花と、左下のひまわりのあたりのような気もしますが、右上のひまわりの花芯や、左下のブルーベリーのあたりも暗いので目が飛んでしまいます。又、センターに近い白い花のシェードが明るすぎ立体感が無いので、やはりセンターを支える位置にしては弱いですね。一つ一つの要素にもっと暗いシェードを入れて、もう少し立体感も欲しいところです。明度の項目では、このように画面全体の明るさの流れとともに、一つ一つの要素の立体感を表すために使われている明度も見ているのです。
 彩度、鮮やかさについては、未知の世界でしょうか。おそらく絵の具のボトルから出した色をほぼそのまま使われていらっしゃるのかもしれませんね。

 トールペインティングは本来、たくさんの明度彩度のそろったボトルから選んだ色で描くクラフトですから、自分で色を調節して作るのは、ちょっとしたハードルでしょうか。うまく使えば、ボトルの色の明度彩度の並びで、流れを作ることもできます。でも微妙な色の変化には、やはり知識が必要です。この作品では、黄色、紫、緑の鮮やかさがどの位置でも全て同じに描かれているので、フォーカルエリアが確立されず、彩度の流れができませんでした。
 3 級では、まだそれほど完璧な彩度のコントロールは要求されません。色の3 要素の理解がもう少しずつ、作品に表現されていると、さらに高い評価を得られます。
 この作品からは、色について学び始めたことが感じられます。フォーカルエリアや立体感を作れるように、さらに色の勉強をしていきましょう。

 このように、いつものトールペイントがとっても上手になってきたら、ちょっとだけ色の勉強を初めて、検定で力試しをしてみませんか。クリティークシートを読むことで、次の課題が見えてきますよ。

Yamazaki_3
山崎裕子プロフィール:
イラストレータとして広告・出版の仕事に携わる。
2003 年ゴールドアーティストに認定。翌年よりシェリー先生・ペギー先生・キャロル先生から研修を受ける。2007 年MDAに認定。NTP(現JCA) トールペインティング技能検定の審査員として活動する。2009 年SDP のサティフィケーション審査員を務める。その他コンテスト多数受賞。現在トールペイントにまつわるブログを掲載中。
http://ameblo.jp/atelier-ys1/


Vol.5 〜2 級ストロークの評価〜

第5 回2級ストロークと3級ストロークの違いは何でしょう

 この検定講座では、検定の意義や、クリティークシートの大切さを、お伝えしております。前回まで、実際に3 級の方の作品をお借りして、具体的にどのような点を見ているのかについて書いてまいりました。今まで、ベールに包まれているかのように、わかりにくかった検定で行われている審査の一端が、ご理解いただけたのではないかと思います。
 今回は、昨年2 級のストロークカテゴリーにエントリーされ、合格には届きませんでしたが、よく学ばれていらっしゃる方の作品を、お借りいたしました。
 いつもながら、快くご理解ご協力いただき、皆様のために作品をシェアしてくださって、頭の下がる思いでいっぱいです。こういった方々のご協力があってこそ、この講座も、とてもわかりやすく充実した内容を、多くの方にお届けすることが出来るのです。本当にありがとうございます。
 さて、審査は通常、2 級ストロークから始まることが多いのです。なぜでしょう。2q
 2 級の応募者の方は、既に3 級に受かっていらっしゃる方です。3 級の基準、覚えていらっしゃいますか?ある程度の基本的な技術力です。つまり、2 級に応募されるものは、基本的な技術力が評価されている方の作品ということになるのです。しかしながら、まだ勉強をしている途中の方たちです。色のことに関しては、ある程度の知識を要求されますが、それほど厳しい評価はされません。
 最初私は、2 級の基準がよくわからず、審査が最も難しいと思っていました。どのくらいが許容範囲で、どの程度厳しく見るのか、さっぱりわからなかったからです。
 3 級で75%の出来栄え、つまり合格作品は、2 級の65%にあたります。それは、1 級の55%です。各級ごとに、ほぼ10%ずつスライドしていくと考えてよいでしょう。
 では、3 級に受かった方は、全員75%以上取っているので、2 級では65%以上取れるのかというと、必ずしもそういうわけでもありません。毎年違う図案が発表され、さらに3 級より2 級の図案の方が、複雑になっているからです。
 3 級応募作品には、アートのような作風から、始められたばかりにお見受けできるものまで、実に様々な作品が集まります。なかなか点に結びつかない個性的な作品でも、少しでも、評価できる部分を汲み取って、なるべく点がつくようにと、拝見していくのですが、クリティークシートに照らし合わせて審査をしていくのが、とても難しい作品に出会うことも、稀ではありません。
 一方、1 級作品は、75%が合格ラインですから、25%分完璧である必要はないのですが、合格してしまえば、もう二度と同じカテゴリーで審査を受ける機会がありません。そういった意味でも、作品から、その方がどのくらい色について理解されていて、確実に表現に結び付けることができるかという部分を判断していく難しさがあります。
 3 級、2 級、1 級の違いや仕組みが少しご理解いただけましたでしょうか?こういったわけで、2 級に提出される作品は、一定基準をクリアされていて、勉強もある程度進んでいるので、1 年ぶりに行われる審査は、ここから始まることが多いのです。
 では、実際に作品を拝見しながら、2 級ストロークに求められているものを考えていきましょう。
 とっても丁寧で、きれいに描かれていますね。仕上げのニスも良く出来ています。3 級に求められる技術的なことは、きちんとこなされています。3 級合格者の方が描かれた作品、本当に美しいでしょう。
 ここからが、2 級の評価です。色、明度、彩度といった色彩について、どのくらい表現できているかを見ていきます。
 ご覧いただいてすぐにお分かりになると思いますが、明度の流れがとてもよくできています。周りを徐々に暗くして、暗い背景に近づけていくことで、センターの部分にまるで光が差し込むように明るく鮮やかなチューリップが、急過ぎることなく浮かび上がり、うまくコントロール出来ました。
 彩度はどうでしょう。明度を落とした結果、同時に彩度も少し落ちていますが、センターエリアから、ロストエリアに向かっての、彩度の流れが、明度の流れほど確実にコントロールされていません。外側にある赤い花はその場所にしては少し鮮やかすぎます。目が赤い色を追って飛んでしまいますね。
 色についても、見てみましょう。写真ですとわかりづらいですが、混色をして色をコントロールしているうちに、カラーファミリーが変わってしまったようです。ここが大きな問題点でした。
 2 級では、こういった色彩についての評価は、それほど厳しくありませんが、ある程度の理解を求められます。
 そして、これはストロークカテゴリーですので、ストローク、ラインワークの評価がとても大きな割合を占めます。
 ストロークは上手に描かれています。引き続き練習をして、確実なストロークが描けるようになることが次のステップへの課題です。
 ラインワークを見てみましょう。ちょっとカクカクして、ぎこちないですね。特に短いラインが太くてぽってりしてしまいました。これも次回への課題ですね。
 このように、技術力のある方が、次に何を学んでいったら良いのかを、指し示してくれ、色について学んでいらっしゃる方が、どのくらい表現に結びついてきたのかを判断するための指針となるのが、2 級検定の評価です。
 トールペイントには、様々なストロークワークの世界があります。ローズマリング、ジョストボ、アッセンデルフト、バウエルンマーレライ、ヒンデローペン、マルチローディングなどなど数え切れません。こういった技法は検定とは無関係と思われていらっしゃいませんか?検定ではこういった技法での表現も重んじています。それぞれのスタイルを重んじながら、技術力、色彩に関する知識を、クリティークシートにあわせて、判断評価しています。
 トールペイント歴も長く、インストラクションがあれば、かなり上手に描けるという方は、次に何を学んでいったら良いのか、壁にぶつかることもあるでしょう。
こんな時には、是非この検定を利用して、次へのステップを切り開いてみてはいかがでしょうか?

Vol.6 〜2 級スティルライフの評価〜

第6 回2級スティルライフの検定で学ぶこと

 この検定講座も、回を重ねること6 回目となりました。多くの方から「毎回楽しみに、欠かさず読んでいます」「とても、学ぶことの多いコーナーです」といったお声をいただき、少しでも、検定にご興味、ご理解を賜り、みなさまのお役に立つことができることを、嬉しく思っております。 さて、今回も引き続き2010 年の2 級のスティルライフカテゴリーにエントリーされた方の作品をお借りいたしました。いつもながら、快くご理解ご協力いただき、本当にありがとうございます。
 2 級スティルライフは、色の勉強をされている方にとって、とても興味深いカテゴリーなのではないかと思います。なぜなら、学んできたことを試行錯誤しながらいろいろな形で表現に結びつけていく過程で、まだまだわからないことも多く、迷いや失敗を繰り返しながら、さらに多くのことを学んでいく途上にあるからです。
 この頃の一緒に学んでいる仲間の会話はとっても楽しいものです。頭の中はセオリーでいっぱいですが、なかなか色に結びつきません。ある部分はとってもよくわかってきますが、意外な部分が抜けていたり、勘違いをしていることもあります。一つピンとくることがあると、次から次へと目からウロコが落ちるように、結びついてくることもあります。でもやはり、検定に受かることのみに目が行ってしまい、暗くて長いトンネルのようにモヤがかかってなかなか抜けられないと感じて、学ぶことをやめてしまう方がいらっしゃるのもこの頃です。受験勉強ではなく、色の勉強をしていたはずなのに、とっても残念なことですね。
 頭の中がセオリーや受かることでいっぱいになってきてしまったら、素敵な絵を描くために、お勉強を始めたことを思い出しましょう。この講座のVol.2 で、お話したこと、クリティークシートで、最も重要な評価、覚えていらっしゃいますか?
「 きちんとデザインの解釈をして、印象の良い作品に仕上がっているかどうか」なによりも、絵として魅力が有るかどうか、という事を最も重んじているのです。
では、具体的に、作品を見ていきましょう。Jca_vol6
 あと一歩で2 級に合格の作品、とっても綺麗で素晴らしいですね。色の勉強もとてもよくされていることが、作品から見受けられます。
 先ず、3 級で押さえるべき点、ニスがけや仕上げ、細かいところへの気配り、綺麗なブレンディングといった基本的なことは、問題なく良く出来ていますね。当たり前のようですが、色にばかり気を取られてしまうと、最後まで気を抜かず丁寧に仕上げるということを、意外と忘れてしまいがちなのです。
 そして何より、この作品の評価が高かった点は、最初に目のいく場所、主題となるフォーカルエリアがきちんと確立されているということです。クリティークシートで、2番目に来る重要な評価です。カートの中のリンゴやイチゴ、ピンクの小花や手前のひまわりの右側の花びらのあたり、このへんに最初に視線がいきませんか? フォーカルエリアは、ひとつのものではなく、いくつかの物を含んだエリアなのですが、とても上手く表現できていますね。
 では、何が足りなかったのでしょう?学び始めた、色、明度、彩度の表現がまだすこしずつ、コントロールしきれていません。
 色を見てみましょう。赤と黄色をバランス良く使っています。黄色はほぼ問題がないのですが、フレーム、カート、リンゴ、花に使われている赤のファミリーが、少しずつずれているのです。イチゴの赤は、レッドオレンジにも見えますが、隣の小花はレッドバイオレットに寄っているように見えませんか?厳しいですね。3 級では、それほど大きな問題点ではなかったところですが、2 級では、もう少しコントロールが要求されます。1 級ともなれば、完璧に同じ色が繰り返されていなければ評価が下がります。
 明度はどうでしょう。センターから、背景に近づくに連れて、花や葉の色を次第に背景の明るさに近づけているのがおわかりになりますか?とても上手くできています。一方、センター以外のところにあるものの立体感を見てください。弱くすることを意識したため、明度差が足りず、立体感がなくなってしまいましたね。これは、1 級受験作品にも多く見受けられる現象です。勉強が進んでいる方に、よく起こりがちな失敗なのです。後ろのものも、しっかりと立体感をつけても、なおかつ後ろに見えるように描くということが大事です。
 最後に彩度を見てみましょう。実はこの作品の最も大きな問題点は、彩度でした。
 主題となるフォーカルエリアを効果的に作ろうと、センターの花や果物の彩度を上げているのですが、全体から受けるハイキー寄りのミドルキー(明るい色調の中間色)の柔らかい印象と比べて、黄色や赤がコントロールしきれず、鮮やかになりすぎて、目が釘付けになって、流れが止まってしまいました。
 鮮やかさのコントロールは、とても難しいですね。色を勉強していくと、最後の難関がこの鮮やかさと画面の中の位置関係と言えるかもしれません。
 鮮やかすぎる色の彩度を落としていくには、ある程度色彩の勉強をしないと、何を混ぜたら良いのか混乱してしまいます。どういう色に落としたいのかという目的がはっきりあって、その色にするために、学んだ色彩学のなかからどの方法を使うのか、ということを選んでいきます。一度体系立って学ぶと、余計な混乱は避けられるようになります。こうして鮮やかすぎる色が今度は、調節しすぎて鈍くなり、鈍すぎるので、少し彩度を上げると鮮やかになりすぎてしまう・・・こんな振り子のような状態を繰り返しながら、少しずつ振り幅が狭くなって、自分の出したい色が作れるようになってくるのです。
 この状態は混乱して、なかなか抜けられずに辛いですか?いえいえ、焦らずに、色作りや描く事を楽しんでくださいね。だんだん色が見えて来るご自身の目や、分かってくる面白さを味わってください。学んだことが、どのくらい表現に結びつくようになったかなと思ったら、誰にも指導されず自分の力だけで描く、締切のある検定作品を仕上げてみてくださいね。もしかしたら、振り子が大きく逆に振れて、点数が去年より悪くなることもあるかもしれません。でも確実に、以前よりいろいろなことが、身についているはずです。
 今年も、みなさまの多くの力作を拝見できることを楽しみにしております。